思い出に残っている授業①|「TRAIN-TRAIN」から学んだ、歌詞の背景を考える面白さ
2026.09.17

歌詞を学ぶ面白さは、言葉の意味や韻の踏み方を覚えることだけではありません。
曲が生まれた時代、社会の出来事、作者が見ていたかもしれない景色まで考えると、それまで何気なく聴いていた一曲が、まったく違って聞こえることがあります。
私には、東京の音楽学校へ通っていた頃に受けた、今も忘れられない授業があります。THE BLUE HEARTSの代表曲「TRAIN-TRAIN」を、アメリカの歴史や貧困、列車で移動した人々の姿と重ねて読み解く授業です。
ただし、これは作者本人が公表した唯一の正解ではありません。私が授業で学び、強く心に残った一つの解釈です。
この記事では、その授業で感じた「そこまで考えるのか」という驚きと、歌詞の背景を想像することが作詞へどうつながるのかをお伝えします。
東京の音楽学校で受けた、忘れられない授業
東京の音楽学校へ通っていた頃のことです。
たしか、ロック音楽史の授業が佳境に入った時期だったと思います。取り上げられた曲は、THE BLUE HEARTSの「TRAIN-TRAIN」でした。
多くの人が一度は耳にしたことのある、勢いと力を感じる曲です。私もそれまで、曲を聴いて「格好いい」「前へ進みたくなる」と感じていました。
ところが、その日の授業は、メロディーや演奏方法の分析だけではありませんでした。
先生は、列車という言葉の向こう側にあるアメリカの歴史、貧困の中で生きた人々、希望や仕事を求めて移動した人々の姿まで話を広げました。
私は驚きました。
一つの曲について、そこまで調べるのか。そこまで考えて歌詞を読むのか。
当時の授業ノートが残っていれば詳しく確認できるのですが、おそらく私は曲名を大きく書いたところで、かなり満足していたと思います(笑)。それでも、そのとき受けた衝撃だけは、今もはっきり残っています。
ORICON NEWS「TRAIN-TRAIN」歌詞掲載ページ
私が授業で教わった「列車」の読み方
私の記憶では、授業ではアメリカのゴールドラッシュや貧困、そして列車に乗って仕事や豊かさを求めた人々の姿と、「TRAIN-TRAIN」の世界を重ねて考えました。
貧困の中で生きる人々が、貨物列車へ無賃で乗り込み、仕事や希望を求めて移動する。厳しい状況でも、生きるために前へ進もうとする。その姿を知ったとき、曲の中にある列車が、単なる乗り物ではなく、生きる力や前進する意志の象徴に感じられました。
ただ、今回あらためて資料を確認すると、私の記憶の中では、複数のアメリカ史の話が重なっている可能性があります。
カリフォルニア・ゴールドラッシュは1848年の金の発見をきっかけに、多くの人が富を求めて西部へ移動した出来事です。当時の代表的な移動手段として確認できるのは、幌馬車や船です。
一方、貨物列車へ運賃を払わずに乗り、仕事を求めて移動した人々の姿は、特に1930年代の世界恐慌期に広がったホーボー文化と強く結びついています。
授業で両方の話を扱ったのか、先生が複数の歴史的背景を重ねて説明したのか、私が長い年月の中で混同したのか。今となっては断定できません。
しかし、それも含めて大切な学びになりました。記憶に残った話をそのまま事実として書くのではなく、もう一度調べ、事実と解釈を分ける。この作業も、言葉を扱ううえで欠かせません。
これは作者本人の公式解説ではなく、一つの解釈です
「TRAIN-TRAIN」は、真島昌利さんが作詞・作曲し、1988年11月23日に発売された楽曲です。
今回確認できた資料の中には、真島さん本人が「ゴールドラッシュを題材にして作った」と説明した一次資料はありませんでした。
そのため、この記事では「TRAIN-TRAINはゴールドラッシュについて書かれた曲です」とは断定しません。
私が受けた授業では、アメリカの歴史や、貧困の中を列車で移動した人々の姿と重ねて、この曲を読み解いた。それは、作品を深く考えるために先生が示してくれた、一つの見方だったのだと捉えています。
歌詞の解釈には、聴く人の経験や知識が映ります。作者の意図を確認することと、作品から何を感じるかを考えることは、似ているようで別の作業です。
「正解を当てる」のではなく、根拠を持って考える。その姿勢を、私はこの授業から学びました。
背景を知ると、一曲の聞こえ方が変わる
ゴールドラッシュとは、1848年にカリフォルニアで金が発見されたことをきっかけに、多くの人が富と新しい人生を求めて西部へ向かった大移動です。
米国国立公園局によると、ジェームズ・マーシャルが1848年1月24日に金を発見し、その知らせが広がると、1849年だけで約2万5,000人が移動しました。1849年から1854年までに、推定約14万人がカリフォルニア・トレイルを通って現地へ到着したとされています。
彼らは、後に「フォーティナイナーズ」と呼ばれるようになりました。
ただし、そこへ向かえば誰もが金を手にできたわけではありません。旅の途中では、家畜を失い、草や安全な水が不足し、コレラなどの病気にも苦しみました。約2,000マイルに及ぶ道のりを進むため、家族や故郷を離れ、それまで経験したことのない荒野へ踏み出した人もいました。
希望だけでなく、焦り、貧困、一発逆転への願い、生きるための決断が入り交じった移動だったことが分かります。
なお、ゴールドラッシュ期の代表的な陸路移動は幌馬車であり、金を求める人々が貨物列車へ無賃乗車して向かった、という単純な歴史ではありません。貨物列車で仕事を求めて移動した人々の姿は、特に後の世界恐慌期のホーボー文化と強く結びついています。
それでも、授業でゴールドラッシュの歴史を知ったあと、私の中で「TRAIN-TRAIN」という曲の列車は、それまでとは違って見えました。
列車は、目的地へ人を運ぶ乗り物です。同時に、文学や音楽の中では、出発、別れ、逃避、希望、成長などを象徴することがあります。
前へ進む列車を、明るい未来へ向かう象徴として読む人もいるでしょう。苦しい場所から抜け出そうとする姿として読む人もいるでしょう。自分の人生を止めずに進める決意として受け取る人もいるかもしれません。
背景を知ることは、曲の意味を一つに固定するためではありません。むしろ、考えられる意味を増やすためです。
作者本人がゴールドラッシュを題材にしたと確認できたわけではありません。その点を踏まえたうえで、富や希望を求めて困難な道へ踏み出した人々の姿を一つの補助線にして、あらためて「TRAIN-TRAIN」を聴いてみてください。
これまで「前向きで勢いのある曲」と感じていた方も、その奥に、苦しい状況でも生きることを諦めず、むき出しのまま前へ進もうとする人間の姿を感じるかもしれません。
「そんなところまで考えるの?」と思うくらい考えてみる。その先に、自分だけでは見つけられなかった言葉の奥行きがあります。
米国国立公園局「The California Gold Rush」
作詞は、言葉を並べる前から始まっている
作詞というと、机に向かい、格好いい言葉や韻を考える姿を想像するかもしれません。
もちろん、言葉選びや構成も大切です。しかし、その前に必要なのは「何を見て、何を感じ、何を伝えたいのか」です。
歴史を調べる。人の暮らしを知る。自分の記憶を振り返る。街で見た風景を書き留める。誰かの一言から物語を想像する。
そうして集めた材料が、歌詞の世界をつくります。
何もないところから突然名曲を生み出そうとすると、白い紙や真っ白な画面が急に強そうに見えてきます(笑)。しかし、自分の中に材料が増えると、書き始めるための入口も増えていきます。
歌詞の背景を考える3つの練習
好きな曲を使って、次の順番で考えてみてください。
1.事実を確認する
作詞者、作曲者、発表された年代など、確認できる基本情報を調べます。作者本人の発言と、第三者による解釈も分けて記録します。
2.歌詞の中の象徴を一つ選ぶ
列車、雨、海、街、季節など、繰り返し登場するものや印象に残るものを選びます。それが単なる風景なのか、感情や人生を表すものなのかを考えます。
3.自分なら何を書くかを考える
その象徴を使って、自分の経験を表現するとしたら何を書くかを考えます。同じ列車でも、通学、別れ、旅立ち、帰郷など、人によって浮かぶ物語は異なります。
大切なのは、誰かの解釈をそのまま正解にすることではありません。事実を確かめたうえで、自分なりの根拠を持って想像することです。
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そんな方は、最初から完成された作品を持ってくる必要はありません。気になった言葉、忘れられない出来事、短い鼻歌からでも始められます。
よくある質問
Q.「TRAIN-TRAIN」はゴールドラッシュを題材にした曲ですか?
A.作者本人がそのように説明した一次資料は、今回確認した範囲では見つかっていません。本記事で紹介しているのは、筆者が音楽学校の授業で学んだ一つの解釈です。
Q.ゴールドラッシュ期に、貨物列車へ無賃乗車して移動したのですか?
A.カリフォルニア・ゴールドラッシュ期の主な陸路移動は幌馬車でした。貨物列車へ無賃で乗り、仕事を求めて移動したホーボー文化は、特に世界恐慌期と強く結びついています。筆者の授業の記憶には、複数の歴史的背景が重なっている可能性があります。
Q.歌詞の解釈に正解はありますか?
A.作者本人が明かした意図や確認できる事実は尊重する必要があります。一方で、聴き手が作品から感じ取る意味は一つとは限りません。事実と個人の解釈を分け、根拠を持って考えることが大切です。
Q.SGMでは作詞だけでも学べますか?
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一つの授業が、その後の音楽の聞き方を変えた
あの日の授業で教わった解釈が、作者の意図と完全に一致しているかは分かりません。
それでも、「一曲について、そこまで調べ、そこまで考えるのか」と驚いた経験は、今も私の中に残っています。
何気なく聴いていた曲の背景を考える。言葉の奥にいる人や、時代の空気を想像する。そして、自分が何を感じたのかを言葉にする。
それは作詞だけでなく、音楽そのものを深く楽しむ方法でもあります。
あなたにも、忘れられない出来事や、誰かへ伝えたい風景があるかもしれません。それはまだ歌詞になっていないだけで、すでに作品の種です。
SGMで、その種を一緒に言葉と音楽へ育ててみませんか。









